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古い写真を追って、マンハッタンとブルックリンを歩いてみた

2019年01月02日

2年ほど前、この古い写真に出会いました。 すごくニューヨークっぽい写真ですね。 建物の外壁に取り付けられた無骨な鉄の非常階段に、マンハッタンらしさがにじみ出ています。 奥には鉄骨の橋がそびえ立っています。 道をよく見ると、フォードのモデルTっぽい車が走っていますが、その奥では馬もまだ使われています。 電灯もありますね。 新旧の文化や技術が混ざった様子を記録した、とても気に入っている写真です。 先日、友達とニューヨーク旅行に行った時、これが撮られた場所を是非訪れたいと思いました。

マンハッタン橋

奥に写っている橋は、有名なブルックリン橋かなと思っていたのですが、ブルックリン橋は主塔が鉄骨ではありません。写真の橋は、そのすぐ隣にあるマンハッタン橋でした。

ブルックリン橋

マンハッタンとブルックリン、そしてそれらをつなぐ橋。南から順にBMWと覚えよう。Apple mapsより

橋のどっち側?

私がそもそもこの写真の事を思い出したのは、友達が数週間前にNYを訪れていて、ブルックリンからマンハッタン橋を撮った写真をインスタに載せているのを見てピンと来たからでした。 私もその景色を見たくて、ブルックリン観光のついでにそこに行ってみました。 そこで撮った写真です。構図はそっくりですね!

しかし、よく見ると白黒写真と違う所に気が付いてきます。 まず、建物が全く違います。 建て替えられてしまった可能性も、ありますが。 また、橋の主塔の道に対する位置関係も微妙にずれています。

もしかして反対側(マンハッタン島側)だったのでは、と思い元の写真を検索してみると、Pike StreetとHenry Streetの交差点で1936に撮られたとの説明があり、それらの道はマンハッタン島にありました。 最初から調べとけばよかったですね。

Pike Streetはチャイナタウンに近い。お昼はSpicy Villageというお店で。旨かった!

そして、撮影場所へ

こちらが、Pike StreetとHenry Streetの交差点、つまり白黒写真と同じ場所から撮影した写真です。

なんか、違う…

というのが着いた時の感想でした。 建物はもとより、道幅も全然違います。 奥の橋がなければ、どの街かもはや分からなくなってしまいます。

ちょっと残念ですが、街は移り変わっていくものなので仕方ありません。白黒写真に写っていた6階建ての建物は、マンハッタンの人口が増えるにつれて取り壊され、建て替えられていったのでしょう。

ブルックリン側の方が、白黒写真の風景と雰囲気は近く感じられます。 同じ場所のはずなんだけど、橋以外は景色が全然違う、という不思議な感覚でした。

Pike streetの波乱万丈な歴史

後日、その写真自体や道が拡張された経緯についても調べてみました。

こちらが周辺の地図です。写真が撮られたのはPike StreetとHenry Streetの交差点です。 Pike Streetは途中で大きく曲がり、Allen Streetに名を変えています。 これはどういうことでしょうか。

周辺の地図。赤い線が、拡張前のPike StreetとAllen Streetを表す。★の位置で写真が撮影された。Google Mapsより

ブラタモリみたいになってきましたね。 タモリさんなら、「これは昔は全く別の道だったけど、車とかが増えて交通量が増えて、道幅を拡張しないといけなくなったから『ついでに繋げちゃえ!』って無理矢理一つの道にしたやつでしょ」とでも答えるでしょう。

さすがタモリさん、だいたいそんな感じです。Pike&Allen Streetsの改修をする際の2010年の事前調査書に、経緯がまとめられていました。

20世紀初頭はユダヤ系の住民が多く住む地域でした。1909にマンハッタン橋が開通しましたが、そのために数々の住居が退去させられました。 その後、Allen Streetはギャングの巣窟と化し、1924にはニューヨーク・タイムズ紙に「この市で最悪の地域」「荒れ果てた古い建物、疫病が蔓延し、貧困と犯罪に苦しめられている」とかなり散々に書かれています。

ニューヨーク市はこのスラム街を一掃すること、そして増えてきた交通量を処理するために1927にAllen Streetの一部を拡張します。 1932には更にEast Broadway以北の道路の拡張が完了しました。Pike StreetとAllen Streetはこの時に繋がりました。

例の写真が撮られたのは、この少し後になります。

変わりゆく景色を保存する写真家、Berenice Abbott

Berenice Abbott, from Wikipedia

この写真は、「変わりゆくニューヨーク」というプロジェクトの一環で、写真家ベレニス・アボットが撮影したものでした。 このプロジェクトでは急激に変化していく街の様子を、新旧を対比させることで浮き彫りにしています。

対象物を淡々と描写したこれらの写真は、この頃のニューヨークの様子を垣間見せてくれる貴重な資料です。

Abbott, 1935

この頃はEast Broadway以北は拡張されていて、近い将来にそこから以南も拡張されることは明らかでした。(実際、1958にPike Streetの残りも拡張されました) East Broadwayを境に突然道幅が狭くなって、古い建物が並ぶ風景は異様だったでしょう。 だからこそ、ここで写真をとったのだと思います。 まだかろうじて残っている古い通りと、近代の象徴である鉄骨で作られたマンハッタン橋の組み合わせは、新旧の対比を意識しているのでしょう。

私はこういう古いニューヨークの雰囲気が結構好きなので(なのでディズニーシーの「アメリカンウォーターフロント」エリアは大好きです)、一枚の写真からこんなに話が広がって楽しかったです。 アメリカにいるけどまたブラタモリ見たくなってきた…



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